Series of Remote Ensemble for Ensemble Free 1. Lassie Song(桑原ゆう作曲:Yu KUWABARA)

— Series of Remote Ensemble for Ensemble Free — for a remote ensemble (2020)
1. Lassie Song
作曲者:桑原 ゆう(YU KUWABARA)

■作曲者のノーツより
COVID-19がもたらした新しい生活の形は、音楽とは何か、作曲とは何か、どこに向けて音楽を発信するのかなど、表現の意味について、改めて問い直す機会となった。
どの分野の表現者も、それぞれに工夫して、どうにか表現の燈を絶やさずにいようとした。舞台での公演やコンサートは、軒並み、中止や延期となった。生身の人間どうしのコンタクトがとれないなか、インターネットがほぼ唯一の発信できる場であり、リモートによる音楽制作がさかんになった。
6月に入ると、自粛の生活はいくらか緩和され、感染症の対策を充分に取りつつ、人が集まっての音楽制作、対面でのレッスンなどは再開されている。
公演やコンサートなども、徐々に開催の方向へ歩みを進めている。
だからといって、表現の場としての、インターネットの重要度が低くなるわけではない。再び、自粛の生活に戻らざるを得ない場合も考えられる。
また、COVID-19によって、インターネット上のコミュニケーションはより親密に、身近になったような感覚もある。インターネットは、リアルな表現の場と並行する、もう一つの表現の場として、これからも存在し続ける。きっと、私たちは今後、リアルとバーチャルの両方でうまくやっていかなくてはならない。

この状況に、まだなんとなく、付いていけない自分がいる。
インターネットの世界は、COVID-19以前からそこにあった。
そのはずなのに、生き抜いていかないといけないもうひとつの世界が、突然、ぽんと現れたかのようだ。
いや、別に、そこでも生きていこうなんて、考えなくて良いのかもしれない。
でも、スクリーンの小さな四角、それを舞台として、創造性を持って、新しい音楽のコンセプトを開拓すること、そして、変化を起こそうとすることが、音楽家に求められているのは確かだと思う。

リモートで制作される音楽作品とはこうあるべきという「べき論」をするときりがないし、それに意味はない。
しかし、可能ならば、どんな機会でも、その空間を活かした面白い作品をつくりたいとは考える。
どのような音楽だったら面白いのか、リモートアンサンブルならではの音楽とはどういったもの
か。

リモートアンサンブルで扱う音楽に適しているのは、テンポが一定の曲、あるいは、裏をかいて、縦を合わせずに成立する音楽の、どちらかになるだろうと思う。
前者で、縦を合わせることに神経が注がれると、結局、生のアンサンブルには敵わない。最終的には編集によって完成するリモートアンサンブルの音楽作品に、時間と空間とを共有することによる「イリュージョン」は起こらないからだ。
少しでも予測できないこと、「イリュージョン」が入りこむ隙間をつくるには、どうしたら良いだろう。
後者の立場だけというのも、なにかもの足りないような気がする。ある種の、奏者間のコミュニケーションを取り込むことができないものか。
なぜなら、リモートアンサンブルをする理由のひとつが、物理的に離れている状態であっても、複数人の奏者でひとつの音楽をつくりたいとの希求にあるからだ。
演奏者は各々の「ホーム」で、各々の時間を持っている。
それを作品に持ち寄り、自然な形でひとつにするような、リモートアンサンブルのための音楽作品をつくれないものだろうか。

いまだ堂々巡りするばかりで、納得できない部分、しっくりこない部分ばかりである。それならば、これを実験の場にさせていただけないかと考え、現時点での私の答えが、アンサンブル・フリーのための、この作品群である。

1.Lassie Song
いわゆる「サンプリング」のアイディアをもとに、オーケストレーションされた作品。
テンポを合わせて録音される旋律の素材と、各奏者の気分と感覚で演奏される短い要素を重ねて出来上がる、ざわざわした、モアレ状の質感の背景から成る。

旋律の素材は、指定のテンポで演奏する。テンポのなかで自由に演奏することは、もちろんかまわない。
対旋律については、先に録音された主旋律の音源を参照しながら録る。

背景の要素は、主旋律のテンポとは全く関係なく、奏者が各々のテンポで演奏して録音する。
要素の内容はパート譜に記譜されていて、スコアには、各要素が配置される位置が番号で示されている。
編集にあたって、これらの要素は、縦も尺も合わせず、パート内で開始のタイミングだけを揃え、対応する小節に配置していく。
なお、soloの指示のある要素以外は、何人でも演奏できる。
 
自粛期間中、一番多くの時間をともに過ごした、愛犬ラッシーの名前を呼ぶ意味で、「La Si」「La Si」と繰り返す旋律を書くことにした。

■作曲家プロフィール
桑原 ゆう(YuKuwabara)
1984年生まれ。
東京芸術大学卒業、同大学院修了。
国立劇場、神奈川県立音楽堂、静岡音楽館AOI、横浜みなとみらいホール、箕面市立メイプルホール、トランジット音楽祭(ベルギー)、CRESC…現代音楽ビエンナーレ(ドイツ)、I&IFoundation(スイス)等、国内外で委嘱を受け、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会、ルツェルン音楽祭、ミラノ国際博覧会等、世界各地の音楽祭や企画で作品が取り上げられている。声明、神楽、民俗儀礼等の取材を重ね、日本の音と言葉を源流から探り、文化の古今と東西をつなぐことを軸に創作を展開。
「淡座」メンバー。
洗足学園音楽大学非常勤講師。
第 31回芥川也寸志サントリー作曲賞受賞。

Website:https://3shimai.com/yu/

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