ピアノ五重奏曲 変ホ長調作品44[管弦楽版初演]第3楽章 Scherzo: Molto vivace(R.シューマン/阿部 俊祐編)

ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44(管弦楽版初演)
第3楽章 Scherzo: Molto vivace
R.シューマン作曲 阿部 俊祐編曲

アンサンブル・フリー第27回演奏会
2018年5月19日
神戸文化ホール 大ホール

◆当時のプログラムノーツ(2018年5月19日時点のものです)
【原曲について】
シューマンの生きた19世紀前半ドイツの文化の特徴の一つに、大きく変化する同時代の社会に背を向け、揺るがない伝統的な価値やノスタルジックな感傷を求める傾向が挙げられる。
彼は、そうした保守的な風潮を痛烈に批判するとともに、自ら、過去の様式を踏襲しつつ革新的な音楽を追求することに努めた。

彼の「室内楽の年」と呼ばれる1842年には、ハイドンやモーツァルト等の室内楽曲の研究の成果として、《弦楽四重奏曲》等の名曲を生み出した。その中の一つ《ピアノ五重奏曲》は、既に一つの編成として完成された「弦楽四重奏」(2本のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)にピアノを加えることにより、室内楽でありながら協奏曲的・交響曲的にも響く「ピアノ五重奏」というジャンルを新たに確立した作品といえる。

楽曲は全4楽章からなり、第1楽章では溌剌とした第1主題と優美な第2主題が響き合い、第2楽章では憂鬱な行進曲・甘美な歌・焦燥のアジタートが夢のように移ろう。
第3楽章では音階とリズムが巧みに絡み合い、第4楽章は堂々たる幕開けから終始華麗な響きで満たされ、クライマックスでは第1楽章第1主題が回帰して壮大な二重フーガが築き上げられた後、幕を閉じる。

【編曲者 阿部 俊祐による解説】
指揮者浅野氏からの委嘱により2017年から2018年にかけての冬に編曲。
この曲はシューマンの所謂「室内楽の年」と呼ばれる1842年に、3曲の弦楽四重奏の作曲後すぐ、わずか2ヶ月という短期間で作曲され、クララ・シューマンに捧げられた。
ピアノ五重奏という編成はピアノに様々な楽器4つを加えたものであり様々な編成があるが、ピアノと弦楽四重奏という編成で作品を書き上げたのはシューマンのこの作品が初めてである。
その後、ブラームスやフランク、ドヴォルザークなどもこの編成で作品を書いている。
オーケストラへの編曲を開始するにあたり、ほぼ同時期に作曲された管弦楽作品のオーケストレーションを参考にすることにした。
前年の1841年は、シューマンの「交響曲の年」と呼ばれており、交響曲第1番と第4番(作曲順でいうと2番に当たるが、出版に際し4番という番号が付された)がその主要な作品である。
これらの曲のオーケストレーションを私なりに分析し、なるべくそれに沿うよう編曲を開始した。

シューマンのオーケストレーションの特徴としていくつか感じた印象は、堅実な弦楽器の響きと、安定した響きをもたらす伴奏背景、弦楽器とユニゾンしない木管による色彩の施し、である。
基本的な定石オーケストレーションだと、高音の木管楽器(フルートなど)はヴァイオリンなどと同度で重ねられメロディなどの音響的補填に充てられるが、シューマンのオーケストレーションではそれがあまり見受けられない。
弦楽器の高音使用は控えられたまま低音~中音域で満遍なく音域が埋められ、それに乗っかるように木管楽器が充てられている。
同時代のブラームス等の作品をみると、ヴァイオリンなどで結構な高音が多用され、それに木管が重ねられているが、シューマンはそれをあまりしない。
また、伴奏音型は、2ndヴァイオリン~ヴィオラを中心に、律動を与えた形で内声の明快な和声を提供している。薄すぎも厚すぎもしない、堅実で安定的なオーケストレーションと言える。
室内楽の書法に目を移すと、こうした中音域の安定や伴奏の補助は、多くはピアノに与えられており、それに音色と優美さを加える形でいくつかの弦楽器が補填するように書かれている。
弦楽器の極端な高音使用は管弦楽と同様、避けるかのように抑えられており、そういった意味でも室内楽とオーケストラで共通するシューマンの「書き方の癖」というものが伺い知れる。

こうした特徴を踏襲しつつ、管弦楽ならではの色彩感とスケール感を生かし、なおかつロマン派の響きを引き出すよう、各楽章、各部分、慎重に編曲を行っていった。
緻密でいながら、大胆でおおらか、余計なことをせず限られた主張を強調する作曲法は、私にとって大いに刺激となった。
正直なところ、私の専門とし得意としているスタイルがフランス近現代作品に偏っているため、あまりシューマンの作品に関してはそこまで詳しいわけではない。
所々に、私の趣味嗜好であるフランスっぽい響きも、見受けられるかもしれない。
シューマンの管弦楽版再現とあまり堅苦しく身構えず、現代のフランス音楽好きの作曲家が、シューマンに敬意を表しつつ編曲してみた一つの形、として楽しんでいただければと思う。

最後になってしまったが、このような機会を与えていただいた浅野氏をはじめ、新たな挑戦を続けるアンサンブル・フリーの皆様に、心から敬意と感謝を申し上げたい。

◆当時の編曲者のプロフィール(2018年5月19日時点のものです)
秋田県出身。東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。在学中に安宅賞受賞。同大学院修士課程作曲専攻修了。フランス、パリ国立高等音楽院作曲科中退。2010年度野村学芸財団奨学生。2011~12年度ローム・ミュージック・ファンデーション奨学生。作曲を四反田素幸、浦田健次郎、小山薫、野平一郎、ジェラール・ペソンの各氏に師事。2010年、京都フランス音楽アカデミーにてアラン・ゴーサン氏のクラスを受講し、最優秀作品に贈られるメシアン賞受賞。同年、第8回TIAA全日本作曲家コンクール室内楽部門2位(1位なし)・歌曲部門審査員特別賞の各賞受賞。同年、第17回奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門中田喜直賞の部優秀賞受賞。2012年、第22回芥川作曲賞(サントリー芸術財団主催)に作品名「IL(イル)」がノミネート。作・編曲作品は著名な国内オーケストラや演奏家により演奏され、NHK-FM等でも紹介された。秋田大学教育文化学部非常勤講師を経て、2015年4月より北海道教育大学岩見沢校音楽文化専攻作曲コース特任講師。
Official Site: http://shunsukeabe.com/

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