忘却曲線からの旅立ち(旭井翔一)

アンサンブル・フリー第21回演奏会
2015年5月24日(日)
尼崎市総合文化センター
あましんアルカイックホール

旭井翔一 作曲「忘却曲線からの旅立ち」

【当時のプロフィール】
■作曲家 旭井翔一
(※2015年5月24日時点のものです)
1988年、福井県生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲家を卒業。
受賞歴は第23回朝日作曲賞(合唱)、洗足現代音楽作曲コンクールB部門(サクソフォーン・アンサンブル作品)第2位、第16回東京国際室内楽作曲コンクール第3位、第28回現音作曲新人賞入選、第31回現音作曲新人賞富樫賞受賞など。

【当時のプログラムノーツ】
(※2015年5月24日時点のものです)
「藝大で学んだことを一切忘れて、まっさらな気持ちで作品を書きたい。そんな思いを込めて≪忘却曲線からの旅立ち≫というタイトルをつけました」
この作品の初版の楽譜を渡されたときに、旭井さんはそのように仰っていました。

指揮者は40歳でもまだ若造と言われますが、作曲家に年齢はあまり関係が無いように思われます。子どもの頃から才能が開花し夭折した作曲家もいれば、50歳を超えてようやく世間に認められた作曲家もいます。
旭井さんは既にたくさんの作品を世に問われていますが、その各々がいつも斬新に感じられます。それは、今回演奏する≪忘却曲線からの旅立ち≫だけでなく、常にまっさらな気持ちで作曲に取り組むことが、彼のスタイルであるからなのかもしれません。

そして、この≪忘却曲線からの旅立ち≫には、もう一つ秘密が隠されています。この作品には終始一貫して色々な楽器によって鳴らされる一つの音があります。ミ♭の音です。冒頭、コントラバスはこの音を鳴らすために通常より半音低く調弦します。(これによって、コントラバス奏者たちの演奏の難度は飛躍的に上がってしまいます。)

この作品は、低音楽器から全体での強奏、そして高音楽器…と様々に出現するミ♭の音と、それとは全く関係ない楽想の交錯によって構築されています。音楽は時間芸術ですから、時が経てば聴き手からミ♭の記憶は薄れていきます。また、全く関係ない楽想を聴かされることによっても、ミ♭は忘れ去られていきます。しかし、ミ♭の音は常に忘れ去られまいと出現します。
ベートーヴェンやブラームスの時代の交響曲では、ソナタ形式が用いられることがほとんどでした。ソナタ形式では、性格の異なる二つの主題が提示され、それらが絡み合い、展開されることによって音楽が流れます。また、オペラやバレエでは「ロミオとジュリエット」「ペレアスとメリザンド」など、男と女がドラマを展開するための二つの大切な要素でした。
既に調性が崩壊し、多くの作曲家が「ハ長調」や「ロ短調」といった音楽構造で作曲しなくなった現代において、旭井さんは「記憶」と「忘却」を音楽が展開するための相反する二つの要素として選ばれました。

旭井さんが選んだミ♭の音はドイツ音名では「Es」であり、「それ」という意味があります。
「それ」に何を当てはめるかは聴き手に任されます。「忘れたくない大切なこと」を当てはめるのであれば、風化していく記憶を必死に留めようとする切ない音楽に聴こえるでしょう。また、「忘れたい辛い過去の思い出」を当てはめるのであれば、忘れたくても何度でも何度でも「Es」が蘇ってくる強迫的な音楽に聴こえるでしょう。
音によってドラマを作り、それが聴き手一人一人の自由な解釈と想像に委ねられるという構成を、旭井さんは全く新しい響きの中で大作曲家たちから受け継いでいるのです。

なお、この改訂版では、初版に無かった「ノイズ・メーカー」という一群が打楽器として追加されています。
彼らは手を変え品を変え「Es」を記憶の彼方へ葬ろうとします。記憶と忘却の激しい綱引きの中に、皆様自身のドラマを見出していただければ幸いです。
(文責:浅野亮介)

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